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うちの子の奥歯(乳歯)に大きなむし歯ができてしまいました。『神経にまでむし歯が広がっているので、神経を取ったほうがいいでしょう』と言われたのですが、神経を取ったら、永久歯がちゃんと生えなくなってしまうのでは?

永久歯の芽は、乳歯とは離れた場所に育っていますので、神経(歯髄)を取っても永久歯に影響はありません。むしろ、神経にまで広がったむし歯を放っておくほうが永久歯に悪い影響を与えます。

患者さんが『歯の神経』と呼んでいる組織は、歯科では『歯髄』と呼ばれています。歯髄は、神経のほかに、血管と歯髄細胞からできています。歯髄細胞の多くは『繊維芽細胞』で、歯髄を覆っている象牙質(繊維の一種)をつくったり、歯に加わる刺激を感じる機能をもっています。一般的に『神経』と呼ばれるのはこのためです。

乳歯は上下20本、5種類あり、歯科では『ABCDE』とアルファベットで呼んでいます。最初に生えるA(乳中切歯)は、胎生7週で歯の芽にあたる『歯胚』があごの骨(歯槽骨)のなかでできはじめ、1歳半ごろには歯の根まで完成します。想像以上に早いですよね。もっとも遅いE(第二乳臼歯)でも胎生10週ごろにできはじめ、3歳ごろには完成します。

一方、永久歯は親知らずを除いて上下に28本、7種類あり、歯科では『1番』や『7番』などと番号で呼んでいます。1番(中切歯)は胎生5ヶ月〜5ヶ月半ごろに歯胚ができはじめ、生後4、5歳で歯の根まで完成します。対して7番(第二大臼歯)は生後3歳半〜4歳ごろに歯胚ができはじめ、14〜16歳ごろに完成します。このように乳歯と永久歯はまったく異なる時期にあごの骨のなかでつくられます。ですから、むし歯になった乳歯の歯髄を取っても、永久歯が育たなくなったり、永久歯の歯髄=神経がなくなることもありません。乳歯は、永久歯に比較してエナメル質も象牙質も薄く、カルシウムの密度も少ないため、むし歯の進行が早いです。むし歯菌が歯髄まで到達しやすく、歯髄を取る治療になりやすいともいえます。

乳歯の歯髄を取っても永久歯が育たなくなることはないといいましたが、乳歯そのものには影響が出ます。歯髄がなくなると、象牙質への栄養の補給ができなくなるからです(歯髄というのは栄養の通り道でもあるんですね)。そのため、歯髄がなくなった乳歯は割れやすくなります。また、歯髄がなくなると、乳歯の歯根吸収(永久歯の成長にともない歯の根が短くなること)の制御が難しくなり、永久歯へ生え替わる時期なのに歯の根が長いままで乳歯が自然に抜けない、あるいは通常よりも早く歯の根が短くなって乳歯が抜け落ちてしまうこともあります。

それなら『やはり歯髄は取らないほうがいいのかな?』と思われるかもしれませんね。しかし、歯髄まで広がったむし歯(歯髄炎)を放っておくと、永久歯の成長に影響します。永久歯は乳歯の根の先でつくられていますので、乳歯の根の先から、その下のあごの骨に炎症が広がると、永久歯の歯胚に細菌感染が及びます。歯肧に細菌感染が及ぶと、永久歯の歯質に形成不全が起こる(ターナー歯)ことがあったり、乳歯の根の先にできた膿により永久歯の歯胚の位置が変化して、歯がまっすぐ生えてこないこともあります。 まとめると、①乳歯の歯髄にむし歯が広がっている場合、歯髄を取っても永久歯が育たなくなることはなく、②むしろ歯髄を取って炎症を止めないと、永久歯の成長に影響が出るおそれがある、といえます。

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